東京都の西部に位置する八王子市（人口５６万人）。東京医科大学八王子医療センター（以下医療センター）、東海大学付属病院など４病院が新型コロナ患者を受け入れています。
入院病床がひっ迫しつつあった昨年１２月、市では医療センターの平井由児教授、新井隆男救命救急センター長らを中心に、ひっ迫状態の改善にとりくみ始めました。

「治療を終えて全身状態は良好だが、リハビリなどが必要ですぐには自宅に戻れない患者さんの転院先の確保が急務でした」と新井医師は話します。

発熱などの症状が出て１０日ほど経過すると、感染力は大幅に低下するとされます。厚生労働省は昨年６月、退院基準を改定し、発症から１０日、かつ症状が治まってから７２時間経過すればＰＣＲ検査なしで退院できるなどとしています。

新井医師らは、他の病院や高齢者施設に病床のひっ迫状況や、回復者の感染リスクは低いことなどを繰り返し訴え、協力を求めました。

市は１２月、回復患者を受け入れた病院、高齢者施設に独自の補助制度（患者一人あたり同額の３万８千円）を設けて後押し。後に都、国は病院への補助を決めました。

病院に加えて、特別養護老人ホームの施設長会（２８施設）も受け入れる方向で一致。合わせて約４０施設の賛同で１月から本格的に実施しています。

特養「絹の道」の村上正人施設長は「各施設はショートステイの空きベッドで受け入れる方向で検討中です。うちでは、職員もお年寄りも常にウイルスを持っているという思いで感染対策を徹底しています。いつでも受けます」と話します。
医療センターでは３月１６日現在、新型コロナの入院患者は重症３人、中等症１６人、疑い８人。１月から２月９日までの回復患者の転院は約２５人で、問題なく順調といいます。１月末の入院患者は約６０人でした。

「保健所から、このエリアはもっとも病床がひっ迫していたときでも、翌日には入院できたと聞いています。回復患者のスムーズな転院で収容力があったからではないか」と新井医師はいいます。
「市や保健所、医師会、特養の施設長会などが一丸となっていて素晴らしい。介護施設も含めて幅広い連携が築けたカギは、昨春の第１波以来のとりくみにあります」。こう話すのは、回復患者の受け入れを予定している陵北病院（４１１床）の田中裕之院長です。

第１波で病床がひっ迫したとき、新井医師の提案で患者受け入れ病院の横の連絡の場がつくられました。八王子市高齢者救急医療体制広域連絡会（八高連、２０団体）の会長を務める田中院長も加わりました。

当初から医師会、市の担当者、市保健所が入って毎週のウェブ会議がスタート。夏以降、療養型や精神科の病院、一般の救急病院、介護施設、小中学校の校長会などが加わりました。

平井医師ら感染症専門の医師や看護師が毎回参加し、全体で知識や情報を共有。会議は４０回を数えます。

市は９月から毎週ウェブセミナーも開催し、毎回医療・介護・教育の関係者２００～３００人が参加。感染症専門医などと質疑応答を重ねてきました。

市地域医療体制整備担当の菅野匡彦（まさひこ）課長は、「ウェブ会議とセミナーをひたすら続け、関係者間で感染症の知識を共有し、信頼関係を築いてきたことが転院を広げるとりくみに実を結んだと思います。市で保健所をもっていることも日々の緊密な情報共有の大きな力になっている」と話します。